東京、麻布のカイカイキキギャラリーでMADSAKIによる新作個展「Island Love」が開催されている(2022年11月26日まで)。
MADSAKI はカイカイキキ所属のアーティスト、1974年に大阪で生まれ、6歳からニュージャージーに移り住む。英語がネイティブのように喋れないハンデを、絵を描くことでカバー。これが現在のMADSAKIを形作ったひとつであることは間違いない。その後国際的アーティスト集団Barnstormersのメンバーとして活動、そして帰国。帰国後は、スプレーアートの作品「文字シリーズ」で注目を集め活躍するように。2016年に村上隆との出会い、これが現在のMADSAKIを確立させた。
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過去の名画や政治家をおちょくるようなシリーズもMADSAKIの代表的な作品であるが、もうひとつのジャンル、プライベートを描いた「嫁シリーズ」は村上隆のサジェスチョンからだった。パブリックとプライベートという対照的な世界を描いてきたMADSAKIだが、コロナによる世界の激変はMADSAKIをも容赦なく襲ったのだった……。内面にあるフラストレーションを、ある意味暴力的とも言えるようなストリートアートの手法で数々の作品に表現してきたMADSAKIだったが、ここ数年の外出規制で、イライラは極地にまで堆積していた。
「オレずっとコロナにムカついてた。メディアは連日『感染者何万人』とか煽ってばかりで『ぶさけんなよ』って。それに対抗する感じでハワイ行きを決めたのね。もともとハワイは好きなところで、なんだかんだと20年以上通っていて、いつかはヒロ(ハワイ島にある地名)を描きたいとずっと思ってた。でも描くならきちんと描かないといけない。今回いっぱい写真撮って帰ってきたから、いまなら思い出して描けるかなと。行く前は、嫁置いて1人で行くことに迷ったけど、嫁の方から『あんた絵描かないと食えないんだから』って言ってくれて、それで3週間ハワイに行けたのよ」。
アーティストの内面は一般の人よりもはるかにナイーブだ。しかしそのナイーブさを作品に反映させることが、見る人の心を惹きつけるトリガーとなる。
コロナ下での行動制限が、MADSAKIのメンタルにどのように影響したかは、本人に聞いてもなかなか言語化しづらいようだったが、今回の個展「Island Love」を見てその核に触れることができたように感じた。いちばんそれを裏付けたのは、会場入り口に飾ってあった、MADSAKIとウミガメとが描かれた一枚の絵(※写真下)だった。
「このカメはレーダーというニックネーム。船のスクリューにやられて治療のために飛行機でホノルルに連れてかれたんだ。で、傷が治ってホノルルの海でバイバイしたのに、ホノルルからまたこの小さな湾に戻ってきたんだよ。彼とは23年くらいの付き合いになるけど決まった呼び方がある。海面をバンバン叩いて、水中で名前呼ぶの。そうすると潜水艦みたいにガーってやって来る。あとオレが1人で泳いでると、突然後ろから肩組んできたりとか。そういうときは泳ごうっていう合図だからオレも一緒に泳ぐんだよね。ローカルはみんなオレのこと「カメおじさん」って言ってるよ」。
ハワイから帰ってきたMADSAKIを象徴するようなこの絵には、MADSAKIの作品の特徴である「たらし」の表現もない。ただ満たされていたハワイでの日常が感じられるだけだ。
「ヒロでは全然絵は描かなかった。描きたいとも思わなかった。座ってボーっとしてるだけで生きてるって実感。朝起きるのも寝るのも楽しい。オレが何で絵を描くのかというと、満たされてないから。描くことで自分の心を満たしてきた。でもハワイに行くと呼吸してるだけで満たされる。だからオレはここにいたら幸せだって分かってるのよ。けどそうしたら絵が描けなくて食えなくなるから、がんばって描いて疲れたらハワイに行ってリセット、ずっと20年以上そういう生活なんだよ」。
起きて海で泳いで、午後は滞在先の、ニックさんという、人生の師であり、父親代わりであり友人でもある大先輩の家の庭の手入れを手伝うという毎日。
「ニックさんは旅人だね。60年代に船に乗って日本を出た。ヒッピーのファーストゼネレーションかな。自由人なんだけど、オレには厳しくて昭和のガンコオヤジだな。でもオレのシンプルライフはニックさんに教えてもらった。ニックさんは窓から見える庭を計算して作ってる。庭が自分にとっての絵なんだよね。この時期はここに赤い花が咲く、その後はあっちが紫になるってアレンジして植えているんだよ。陽が陰るから木を切れって言われてチェーンソーで全部ぶった切ったら、切っちゃいけないのもあったみたいで『バカヤロー』って怒られて『そんなの知らねえよ』だよね(笑)」
木を豪快に伐採するシーンも含めて、ニックさんとの日常も数々の作品に描かれている。今回のハワイシリーズは、MADSAKIプライベートシリーズの究極の世界だろう。東京での日々に精神を削りながら、ギリギリのところでハワイに帰還してデトックス。その繰り返しで今日もMADSAKIは描き続ける。
展覧会はカイカイキキギャラリーで2022年11月26日(土)まで開催。
©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
Courtesy of the artist and Kaikai Kiki Gallery
写真/坂下丈洋(BYTHEWAY) 文/額田久徳
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