【社長取材】スイス時計ブランド「フレデリック・コンスタント」「アルピナ」の今とこれから
今年2017年8月より、いよいよシチズングループでの販売を正式にスタートさせたフレデリック・コンスタントとアルピナ。両ブランドの魅力や今後について、ピーター・C・スタース社長に直接お話を伺いました。
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フレデリック・コンスタント◆1988年、スイス・ジュネーブで誕生。デザインや設計から最終組み立てまでを一貫して手がける。2004年からは自社ムーブメントを開発し、マニュファクチュールブランドに。エントリープライスゾーンの10万円台から、中価格帯と呼ばれる30万円前後の商品構成が充実している。
アルピナ◆1883年、スイス人のゴットリブ・ハウザーが後に「アルピニスト」と呼ばれる時計職人を集め、「アルピナ・ユニオン・オルロジェール S.A.(UH)」という組合を結成したのに由来。世界初の国際時計保証制度を設けたり、現代のスポーツウォッチの礎を築いたりと、時計史を語るに欠かせない成果を残す。現在は10万円前後の価格帯が主力。
ピーター・C・スタース◆フレデリック・コンスタント グループ社長。オランダ生まれ。在ニューヨークの独立系法律事務所で活躍した後、1989年にオランダのロイヤル フィリップス エレクトロニクスの営業部長として入社。その後、アジア太平洋地域の製品マーケティング責任者に昇格し、1997年まで同職を勤める。一方、休暇で訪れたスイスで時計に魅了され、「スイスメイドの高品質でクラシックな時計を手頃な価格で提供したい」という想いを醸成。妻と協力して試作品を開発し、1988年に「フレデリック・コンスタント」を創設。1992年の香港見本市に出品させたのを皮切りに、各界から高い評価を集めた。1997年にフィリップスを退職。2002年にはスイスの時計メーカー「アルピナ」を買収。そして2016年、シチズン時計グループに入る。
「世界でもプレゼンスを発揮できているのが、フレデリック・コンスタントの強み」
──フレデリック・コンスタントとアルピナはシチズン時計グループ入りを果たされ、今年から本格的に販売をスタートしました。4月20日に開業したGINZA SIXの「CITIZEN FLAGSHIP STORE TOKYO」は、グループ化による多ブランド展開の象徴的な存在だと思いますが、どのようにお感じですか?
「我々のブランドが他の多くのブランドと一堂に展示されるというのは、とても意義深いことだと感じています。聞くところによると、同店舗ではシチズンの次にフレデリック・コンスタントが売れているとのこと。日本におけるフレデリック・コンスタントのポテンシャルはまだまだ大きいと考えていましたので、その一部分がこうして証明され、考えが確信に変わりました。東京・銀座という魅力的なエリアでブランドのメッセージを発信できることも、魅力に感じています」
──日本人のみならず、海外からも多くのお客さんが訪れているようです。
「フレデリック・コンスタントのひとつの強みは、世界中で人気を誇っていることです。現在の売り上げの割合は、日本を含むアジアが30%、ヨーロッパ35%、アメリカ15%、ロシアや中東などその他が20%で、世界100カ国以上、3000店舗以上で販売されています。海外から日本にいらっしゃるお客さまでも、フレデリック・コンスタントをご存知の方は多いはずですから、それが売り上げにつながっているのだと思います。また、反対に日本のみなさまがジュネーブに旅行された際は、現地でフレデリック・コンスタントをお買い求めいただくケースも少なくないようです。
世界でしっかりとプレゼンスを発揮できているのは、ブランドの強みだと考えています」
「ターゲットは機械式時計に興味と情熱を持ちながら、資産が潤沢ではない30~45歳」
──フレデリック・コンスタントについて、お聞かせください。
「創業以来、時計の伝統を色濃く感じさせるクラシックなブランドという位置づけを貫いています。2001年頃からはムーブメントの自社開発を進め、ジュネーブやオランダにあるウォッチメーカー学校と提携。卒業生を招いてマニュファクチュールの能力を高め、ブランドとしての魅力をさらに磨きました」
──スイスのマニュファクチュールブランドで品質にも優れながら、手の届きやすい価格設定であることにも魅力に感じます。
「最初から我々の哲学は、『手の届くラグジュアリーをみなさまにお届けする』ことでした。そのため、クオリティを追求することはもちろん、お買い求めやすい価格を堅守することも重視しています。なお、私たちが具体的にメインターゲットと想定しているのは30~45歳。スイスメイドのすばらしい機械式時計について興味や理解を持ちながらも、100万円近いモデルを買うだけの資産はないという方々は数多くいらっしゃいます。そうした方に満足いただける時計をご提案したいと考えています。その年代へのアプローチはブランドの成長戦略の要であり、今後も強めていく所存です」
──今年発表された「フライバック クロノグラフ」も、非常に複雑で精巧なモデルながら、買い求めやすい価格設定でした。
「そうですね。極めてむずかしいムーブメントで、開発に6年かかりました。開発・デザインから組み立てまで、すべてを自社で行っています。こうしたモデルも、30~45歳の層に魅力的に映るよう慎重に価格設定しています」
「コストカットによる利益を顧客に還元する」
──マニュファクチュールとして卓越した技術を持ちながら、ここまでコストパフォーマンスに優れたモデルを開発できている理由は何でしょうか?
「お買い求めいただきやすい価格の設定には、複数の要素が組み合わさっています。
1つめは、インハウスの促進による中間マージンの省略や効率化。ウォッチメーカーは部品製造からデザインまで、伝統的に外部のスペシャリストに外注しなければならない領域が多いのですが、私たちはパーツの製造も組み立ても自社で行い、効率化も図って低コスト化を推進しています。外部のチームにデザインを依頼することもありますが、十数年にわたって良好なパートナーシップを結んでおり、非常に実務的で効率的にプロジェクトを進行することで、余計なコストの発生を抑制できています。
2つめに挙げられるのは、組み立てに必要となるコンポーネント・部品を最小限に抑えることです。それによって製造・組み立てコストを削減しています。複雑な機構でも、可能な限り単純化して少数の部品で駆動するよう研究していまして、たとえば『フライバック クロノグラフ』では、アイアンエッジングという新しい技術を用いることでスタートとリセットに同じレバーを起用し、部品数を削減しました。
3つめは、最新機器を積極的に導入していること。ムーブメント開発時には、最新の3Dプリンタを使ってプラスチック素材で原型を立体プリントし、チェックしています。金属で切削するより製造費が抑えられ、時間も短縮できて効率的なのです。ジュネーブにある私どもの工場は、古いウォッチメーカーの工場よりも格段にイノベーティブな設備を実現しています」
──そうした努力によって果たしたコストカットが、顧客に還元されているというわけですね。
「そのとおりです。魅力的な製品をお届けすることが実際に売り上げにもつながり、さらによいモノを作るという好循環が生まれています。たとえば『パーペチュアルカレンダー』は、500本か600本の売り上げを予想していたのですが、実際には1500本以上も売れました。『パーペチュアルカレンダー』というカテゴリにおいて、これはものすごい販売実績です」
──シチズン時計グループ入りを果たされましたが、生産・開発の領域で協業を深めていく考えはありますか?
「今のところ、そうしたプランはありません。シチズンブランドにはエコ・ドライブを始めとする魅力的なムーブメントがあるのを知っていますし、私たちにもスイスメイドとして誇れるムーブメントがあります。現在、フレデリック・コンスタントのブランド内でもムーブメントの供給が追いつかないくらいであり、他ブランドに譲れるほどの余地はなく、逆に譲り受ける予定もありません」
「アルピナ買収でスポーツウォッチのラインナップを取り入れた」
──次に、アルピナについてお聞かせください。
「はい。アルピナは1883年に創業した、スイスでも歴史深いブランドのひとつです。特に1938年に開発された『アルピナ4』は耐磁性、耐衝撃性、防水性、ステンレススティール素材を備え、今日のスポーツウォッチの原型となりました。現在はアビエーションの『スタータイマー』、ダイビングの『シーストロング』、フィールドやハイキング、スキーなどが対象の『アルパイナー』の3つでシリーズ構成しており、中でも『スタータイマー』が売り上げの主力になっています」
──2002年に買収されたのはなぜでしょうか。
「まず、ブランドは一貫性を保持し続けるべきだと私たちは考えています。フレデリック・コンスタントは、非常にクラシカルなブランドで、スポーツウォッチは存在しません。限られたディスプレイの中でしっかりとブランドの価値観や世界観をお客さまに伝えるためには、アイデンティティがぼやけてしまってはいけないのです。いかに、ブランドのアイデンティティやDNAを明確にするか。そういったものを常に考えながら、これまでブランド戦略を行ってきました。
ただ、それでもお客さまから『スポーツウォッチはないのか?』とリクエストをいただくこともありました。でも、フレデリック・コンスタントには、スポーツウォッチを混ぜたくない。そうした中でアルピナの買収案が持ちかけられ、渡りに船だと思ったのです。アルピナはその名のとおり、アルパインのイメージを持ったスポーツウォッチブランドですから」
──アルピナのデザインや製造は、フレデリック・コンスタントとは分けているのですか?
「技術的な部品の開発や生産の過程は、統一された工場で一緒に行っています。ただ製品のデザインや、製品ができあがった後のマーケティング活動は、まったく別に分けています」
──日本での知名度は、まだそれほど高くありません。
「そうかもしれません。アルピナは、特に1950~60年代はヨーロッパで非常に人気があり、2000店舗以上で取り扱われていました。ブライトリングと同じくらいの知名度があったのです。しかし、1980年代に起こったクォーツショックに飲み込まれてしまいました。私たちが買収するときは、ほんの30店舗くらいでしか販売されていない状況だったのです。ただ、確固たる歴史があり、一時期は非常に隆盛したブランドであることは事実。その強みを背景に、魅力的なコレクションを展開すれば再び世界の人々から注目を集める存在になるだろうという確信がありました」
──ブランドの再興という事業は、ご自身で一から立ち上げるのと、また違った苦労がおありだったかと思いますが。
「そう簡単ではありませんね(笑)。やはり、たくさんの努力が必要でした。モノ作りはもちろん、宣伝広告や営業活動など、すべてにおいてしっかりとした情熱や熱意がなくては、成長できません。何かひとつが欠けても、ブランドを再構築できないのです。時間をかけてしっかりと注力してきたことで、アルピナの売り上げは世界各国で伸びてきています。日本を含むアジア圏はまだ発展途上にありますが、これから徐々に伸ばしていきたいと考えています」
「価格に敏感になる中で理想的なポジションをキープできている」
──スマートウォッチの登場など、時計業界は激動の時代を迎えていますが、業界の現状をどうお考えですか?
「私たち自身がフレデリック・コンスタントやアルピナで実践していることですが、やはり長期的な戦略を変えないということが要だと考えています。フレデリック・コンスタントでいえば、ジュネーブの伝統を尊重した、クラシカルなマニュファクチュール。アルピナはスイスの山脈をイメージさせる、スポーツウォッチ。戦略を変えずに継続することがブランドの強みになり、DNAを強化し、価値を高めていくことにつながる。そうすれば、どんな荒波にも飲まれずに済むと考えています」
──2017年の腕時計のトレンドについて、どう感じですか?
「ジュネーブやバーゼルをのぞいて感じたのは、『リーズナブルな価格設定』を意識した動きです。特にハイエンドブランドに顕著で、これまでよりも価格を抑えたモデルを発表したブランドが多かったように思います。世界的に経済が厳しい中、やはりお客様は商品の価格に敏感になっており、ポジションの見直しを迫られているブランドが少なくありません。しかし、安易な変更は逆に消費者を混乱させてしまう危険も生じさせてしまう。彼らにとっては、むずかしい判断となるでしょう。
そうした流れがある中で、当初から“アクセシブルラグジュアリー/手の届くラグジュアリー”という手の出せる価格帯を提案してきたフレデリック・コンスタントや、より買い求めやすい価格に設定しているアルピナは、とてもいいポジションをキープできていると考えています。コストパフォーマンスを重視する流れは、そのまま私たちのブランドの存在を際立たせてくれることにつながるはずです」
──最後に、フレデリック・コンスタント、アルピナファンにメッセージをお願いします。
「シチズン時計グループと一緒になり、日本の多くの皆様に触れていただけるチャンスが増えたことは、とてもうれしく思っています。お客さまにとっては、やはりお店で実物を見て触っていただくことがなによりも重要で、GINZA SIXを皮切りに、今後日本各地で取り扱い店舗数を増やしていきたいと考えています。店舗で私たちの時計を見かけたら、ぜひお手にとって試してみてください」
フレデリック・コンスタント相談室
0570-03-1988
https://frederiqueconstant.com/ja/
アルピナ相談室
0570-03-1883
http://alpinawatches.com
取材・文/横山博之 撮影/中村圭介、横山博之、シチズン時計、フレデリック・コンスタント
(価格はすべて税抜表記です)
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