「寺尾vs.貴花田は今も心に残る名勝負No.1」実況40年の元NHK藤井康生アナが語る“大相撲観戦の醍醐味”“すごい解説者”とは?/『MonoMaxお相撲同好会』
執筆者: MonoMaxお相撲同好会
膨大な事前準備のうえにあの実況がある! 実況用の力士カードを公開!
お相撲同好会 NHKで相撲の実況を担当することになってから、決まり手や力士の情報など、どのように勉強したんですか?
藤井 子どもの頃からテレビで相撲を観ていて相撲の知識はある程度ありましたから、相撲の実況担当になったときもそれほど苦労しませんでした。ただ、中継のために日々データの収集をし、力士の勉強をしました。NHKでは、毎日の帳付けという言い方をしているのですが、帳面に付けていくように十両・幕内の取り組み全部を文字で書きつけていくんです。「立ち会い、◯◯山が左の前まわしを狙い、これが取れず、●●海がつっぱって出ると、下がった◯◯山が右の下手を取って足をかけながら投げて……」といった感じで全部文章にするんです。それを、例えば次の場所にこの2人が対戦するとき見返して、先場所はこうだったなと確認するわけです。
お相撲同好会 すごく時間がかかる作業ですね……。
藤井 昔はネットがなくて、手書きで書き残すしかない時代でしたからね。今もその習慣が残っていて、日々の一番一番の動きを書き残しています。その帳付けとは別に、一人ひとりの力士カードを作って(写真上・下)実況中の資料としていました。ハガキ大の大きさで、その力士が入門したときから、対戦相手との勝ち負け、決まり手を付けたカードを持って、それを取り組み順に並べて、手元で開きながら放送していました。
お相撲同好会 今のアナウンサーだと、パソコンを使う方もいそうですが。
藤井 かつて放送席に持ち込もうとした人はいました。ですが、機械のトラブルがあったときが怖いですよね。結局、手元にかたちとして残るもののほうが、安心感があるということでしょう。
お相撲同好会 実況は膨大な前準備をして臨んでいるということがわかりました。
藤井 そういう表に出ない蓄積をしなければ、放送が成り立たないんですよね。だから、みんな一生懸命やっています。
お相撲同好会 今も実況のときはそのような準備をしているのですか?
藤井 私も年齢を重ねて経験を積んだので、ズルというか楽をする方法をだんだん覚えてきました。前の日の夜遅くに明日のための準備をすると、ついもっと調べたくなって午前1時になり2時になり3時になり……。そうなると翌日に影響が出てしまいます。だから、体力のことも考えて、ゆっくり寝よう、そして当日の朝に準備をしようと考えるようになりました。当日の朝に準備をしようとすると、時間はどうしても限られてきますから、その時間内でできる準備をしようと考えるわけです。よく言えば、昔より要領よく準備ができるようになりました。
お相撲同好会 ABEMAで実況を観るときは「このカードを見ながら実況されているんだ」
と想像しながら観ることにします。
藤井 昔と比べて相撲も変わりましたが、少しでも相撲の魅力を伝えられたらと思います。ABEMAは一番正面のいい席に座って観ているような動画ですから、そこでごひいきの力士を探してみてください。
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