創業者に聞いた!ミステリーランチが「小さなアイデア」を重要視する理由
別の記事でもご紹介した通り、4月15日に待望のオンリーショップを原宿にオープンさせたミステリーランチ。
それに合わせ、急遽来日した創業者のデイナ・グリーソンと、デザインを担当する息子のD3にインタビューを行いました。
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荷物を持つ負担をできる限り低減させるのがメーカーの使命
──世界初のオンリーショップ「ミステリーランチ トーキョー」のオープン、おめでとうございます。率直なご感想をお聞かせください。
デイナ:
これまで何度も日本に訪問したことがあり、原宿という場所の魅力をよく知っています。今回、「ミステリーランチ トーキョー」を出店することができて、実に光栄です。
実はこのお店の場所は、もともとグレゴリーストアがあった場所なんです。8年ほど前に息子のD3と一緒に訪れたことがあって、『こんないいところにミステリーランチのお店なんてできないよね』なんていっていたんだけど、まさかそれが本当になるとは夢にも思いませんでしたね。グレゴリー創業者のウェイン・グレゴリーは、よき同業者であり、よきライバルといった関係なんです」
──お2人の関係は長いのですか?
デイナ:
ウェインが1980年代にお店を作ったときからの関係ですね。当時、彼の店で唯一取り扱っていたグレゴリー以外の製品が、私が作っていたクレッターワークスのバックパックでした。そのときからですね。
でも、すごく仲がいいかといえば、そうでもないんです。1985年、私たちがいたサンディエゴにイギリスのロックバンド「The WHO」がツアーで来ていて、私はウェインに「ライブに行こう」と誘ったんだけど、彼は「俺はいいや」ってカウチに寝ていたんだ。そのとき、そこが私たちの違いだなってわかったんですよ(笑)。
──あらためて、ミステリーランチの魅力を教えてください。
デイナ:
パックはモノを入れて運ぶ道具であり、今の時代、どんな人も多少なりともモノを持ち歩かなくてはなりません。その負担をできる限り低減し、快適にすることが、私たちパックメーカーの使命だと考えています。それは原宿の街を歩く方々も、戦地を行軍する軍人も、火災現場に赴く消防士にとっても同じこと。使用する人のことを考え、本当に役に立つパックを目指しています。
見た目のかっこよさや上辺のデザインといった部分は、第一条件ではありません。マーケティングで売ろうというブランドではありませんから。ファッション感度の高いキャットストリートのようなエリアにおいても、ミステリーランチは「本物」のパックを提供することで魅力的な価値を提供できると確信しています。
──独自のレギュレーションのもと、材質および製造上の欠陥に関して「生涯保証」を約束されているのは、なぜでしょうか?
D3:
ここ最近でも父のデイナと話していましたけど、やはり僕たちは「ベストなギアを作る」というのが根本であり、絶対曲げちゃいけないところだと考えています。
それで、その人にとってベストなギアを提供できると、その人はそのパックをずっと使い続けることになるわけですが、万一通常使用の中で故障しても再び使えるよう保証しています。それに、少なくとも20年は使い続けられるよう、モノ作りを行っています。20年も経てばライフスタイルも変わり、その人にとってのベストも変わるでしょうから。ですから「生涯保証」は実際の保証でもあり、長期間使い続けられる製品だという僕らの自信の現れでもあるんです。
優れたバッグを生む「小さなアイデア」は、経験の積み重ねがないと得られない
──ミリタリー、ハンター、森林消防隊、登山家など、その道のプロのためのバックパックを開発されていますが、どのようにして理想的な製品を開発できているのでしょうか?
デイナ:
まずは、そのユーザーのことを明確に知り、観察することです。
検証も何度も行います。戻ってきたテスト用のバッグを見れば、彼らがどういう環境下で、どういうふうな活動をしてたかというのがすぐにわかります。森林消防隊が使っていたバッグからは、煙のニオイも立ち込めますね。
とはいえ、ミリタリーや森林消防隊のようなプロフェッショナルユーザーの場合、需要がものすごくはっきりしていますから、逆に開発は難しくないんです。どんな荷物をどう運ぶのか、どのような機能が必要なのか、はっきりしていますから。
そして大切なのが、小さくても役立つアイデアを採用することです。ユーザーニーズに基づく大きなアイデアはすぐに搭載させられますが、ほんとに小さなディテールなのに、それがあるだけですごく便利になる小さなアイデアは、パック作りの積み重ねが不可欠です。ミリタリーのパック作りで培ったノウハウをハンティングのほうに活かしてみたりと、創造力を働かさなければなりません。
たとえば、カジュアルバッグの中には、片手で開け閉めしやすいようにしたモデルがあります。そのアイデアの由来は、エアフォースのパラシュート部隊に所属する救難員から寄せられた意見にありました。彼らは武器を携帯していたり患者に触れていたりするため、常に片手が塞がった状態であり、バッグの開け閉めや荷物の取り出しは片手で行わなければならないのです。彼らのために生み出したアイデアは、片手がスマートフォンで塞がった若者のためにも役立っているのです。
──魅力的なバッグを生み出すアイデアソースは、そうしたいところにあるのですね?
デイナ:
そうですね。インタビューの中で要望を聞き出し、対話してお互いの理解を深めていくことが重要です。その中で、ときに突拍子もないアイデアや、考えていたのとまったく異なる解決策が見いだされることもあり、それらを形にしています。
──USAでのモノ作りにこだわる理由は何ですか?
デイナ:
現在、製品の約40%をUSAで、他はフィリピンやベトナムの工場で製造しています。
USAでの製造割合を高く維持しているのは、やはり私たち自らが作り手という立場にいないと、モノを作る技術はどんどんと失われていってしまいます。それに人を育てるという意味でも、国内でスキルや技術を磨かせるのは大きな意義があります。
ミリタリー向けパックなど特殊な要望を満たさなくてはいけない場合、海外に発注していては微妙なニュアンスを伝えにくく、開発に時間もかかってしまいます。また、ミリタリーの中でも特殊な任務で使われる製品は、USA国内で製造されなくてはならないルールも存在しています。
2000年以降、ユーザーはバッグを学ぶ時間を取れなくなった
──デイナさんは、50年近くバックパック業界に従事してこられました。ライフスタイルの変遷に伴い、バッグに求められる機能性や実用性、デザインはどのように変わってきましたか?
デイナ:
今のユーザーは、本当に目が肥えていると思いますね。驚くような製品を提供するというのは、難しい時代です。私がクレッターワークスを1975年に作ってからは、タフなコーデュラナイロンの採用、滑りの良いYKKのファスナー、プラスチック素材などを次々に採用しては、容易に性能を向上させることができましたから。それに当初は、背中にフィットさせることだけが求められていましたが、やがて荷重をスムーズに移動させるというニーズも生まれてきました。
1990年代から2000年に入り、私がミステリーランチのほうに移ったときに特に変わったのが、ユーザーのパックに対する捉え方です。
前時代のユーザーは、バックパックの知識が必要でした。どれくらいストラップを調整すれば自分にとって快適なのか、そうした知識を経験の中で身につけることがパックを快適に使う大前提だったんです。しかし、2000年に差し掛かる頃になると、ユーザーには他にもやるべきことが増え、そこまでパックについて色々と学べなくなったんです。
ミステリーランチのパックの中身は、ものすごく機能的で良質の素材を使っていますが、それらすべてをユーザーに知っていただく必要はありません。ただ使っていくうちに、この機能があるから、この素材が使われているから便利なんだと、自然と気づいてもらえる機会があるかもしれません。
──ちなみに、普段はどのようなバッグを使っていますか?
デイナ:
この3ジップアクセスのバックパックをいっつも使っています。とにかく簡単に開けられるし、肩掛けでも快適だし、両掛けももちろんいいですし。
D3:
僕の場合は、特定のパックだけを使うことはありません。
プロタイプだったりサンプルだったり、自分でデザインしたパックを、テストを兼ねて使っていますね。どうすればもっとよくできるのか?を考えながら。
──"理想のパック"とは何ですか?
デイナ:
パーフェクトなパックが生まれたら、もうデザインの必要はないでしょうね(笑)。パック作りに携わる人それぞれに意見がありますから、もし息子とその話をしたのなら、言い争いする姿をお見せすることになるでしょう(笑)。
D3:
多少の体型の変化はあっても人は大きく変わりませんが、持ち物は常に変化していっています。バックパックも、昔はアウトドアギアや本を入れるくらいでしたけど、今はノートパソコンやスマホを入れるようになりました。その時々でパックは進化していくもので、いつの時代も通用するパーフェクトなパックというのは、実現困難でしょうね。
人々は価値の共有を求めあっている
──日本のマーケットはどのような存在ですか?
D3:
楽ではなく、たくさんのチャレンジが必要ですが、ものすごくやりがいも感じてます。日本人はモノに対する目が特に厳しく、時にはミリタリーや森林消防隊と匹敵するくらいにニーズを求めてくる場合があります。それは、ものすごくチャレンジでやりがいがあることなんです。
デイナ:
世界のトレンドが日本のトレンドに向かっているという印象を抱いています。日本は、世界を一歩リードしている。
D3:
僕の見方は父さんとちょっと違っていて、たしかに日本は時代を先行していますけど、それは「トレンドのないトレンド」を先駆けているように感じています。
今の時代、トレンドは同時多発的に生じては衰退し、誰もが惹きつけられるような一大トレンドは生まれなくなっています。
ぶっちゃけていえば、これまでのトレンドの本質的な部分には、「カッコよくみられたい」「かわいくみられたい」という意識があったと思うのですが、その対象は社会の不特定多数に向けられたものでした。ところが今は、スケーターやクライミング、ハイキングなど、特定のアクティビティやグループに共感して、価値観を共有しあうことを求めている人が増えています。それも、ひとつのグループではなく、同時並行して多数に。そんな時代のシンクロニシティが、今の僕たちがトレンドと言い表そうとしていることなんじゃないかなと思います。
つまり、かっこよくなりたいからブランドのアイテムを買うのではなく、その価値観を認め合う人々のコミュニティに入って、気持ちを共感し合いたいから、ということでしょう。
──最後に、今後の展望を教えてください。
デイナ:
これまで、ミリタリーなどプロフェッショナルの商品開発を行い、さまざまな部分を学んできました。そうした技術や知識を、もっと日常に役立つパックに活かしていきたいと考えています。
D3が話したように、彼は今のライフスタイルをとてもよく理解していますから、これからも開発をリードしていってくれるでしょう。
今後数十年先のことは、私の方はよくわかりません(笑)。
ミステリーランチ トーキョー
03-4578-8827
http://www.mysteryranch.jp/
取材・文・撮影/横山博之
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