異国の地まで持ち歩く唯一のプライバシー空間だからこそ
確かに、蓋も受けもなく真ん中で均等に分かれるようになったシェル構造は、2倍近い平場が必要になる以上、今どきの新しめのホテルの、面積の限られたスタンダードルームではもてあますように見える。でも蓋側の荷物が軽ければ、90度に開いて立てることは無理ではない。
逆に平置きなら、必要最低限がフラットに見られるメリットもある。荷の重なりが少ないがゆえ必要なものが見つけやすいので、日常からの逸脱の少なさ、安心感を覚える。いわば日常生活により近い感覚だ。今どきの、街を観光するといっても観光名所より、ロコの人に近い生活感や日常感を味わいたいという、そんな気分にも沿っている。
それにしても、ハンブルクには港町ならではの機能的な街づくりがそもそもの設計思想に染み込んでいるようで、旧いが機能的でスマートかつ新しい、そんな側面がある。
例えば旧港湾地帯の河岸には「旧エルベトンネル」という地下トンネルがあって、何でも埋立地の島で働いている人たちが、夕刻から夜にかけて風が強くなると船では危なくて水の上を渡れなくなるので、地下に通行用トンネルを掘ってしまった。100年ほど前のことだ。
白い磁器タイルで覆われたトンネルは、同時代に整備されたパリの地下鉄にも似た造りで、今は一般公開されている。
他にも、港町ならではの風情を求めて、スーツケースを波止場に連れ出してみると、グローブトロッターはやはり、相応のオーラを放ち始める。ああ、やっぱり2枚目だった、みたいな話だ。
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