煉瓦造りの機能的な街並を行き来しながら、突然思い出した。ハンブルクは1960年代の初頭、いまだブレイクする前のビートルズが何度か滞在して、船員らを相手にレーパーバーンという歓楽街のクラブで演じていたことがある。それを記念してというか意識して、おそらくは肖像権に触れない方法だったのだろう、レーパーバーン通りの入り口にはビートルズの輪郭をステンレスで象ったモニュメントが置かれている。
レーパーバーンは今では夜も歩きやすくなったと評判だが、昔はいわゆる岡場の赤線地帯で、ビートルズがリバプールを出て修行に来ていた頃も、演奏が気に入らないと酔客からガラスのビールジョッキが飛んでくるとか、お洒落なライブハウスどころかけっこうピリつく荒んだ雰囲気の中で演じていたらしい。
とはいえ当時、船乗りといえば日銭をがっぽり稼いでいて、ウケればチップの弾む、気前のいい聞き手でもあった。そんな客を相手に腕を磨いたからこそ、後のブレイクに繋がったという訳だ。
異国の地にスーツケースひとつで、ビートルズの面々なら楽器ケースをも伴っていただろうが、野心をもって降り立つ高揚感は、いかほどのものだろうか。そんなことを考えながら、折角なのでモニュメントの前にスーツケースを置いて、ジェームス・ボンド×ビートルズという、ベリー・イングリッシュな記念撮影をしてみた。
作られた虚像かもしれないが、確かに昭和の大スターたちは、使命や野心を果たさんがための旅が日常だったのだな、と感じた。
今回、グローブトロッターの4輪トロリーを使ってみて、気づいたことは、旅先でひとつの滞在先に留まるでなく何か所かをホップするなら尚更、スーツケースはフットワークに優れるタイプがいい、ということだ。いずれ実用品である以上、スーツケースは荷物が入りさえすれば、運べさえすれば別にいい、という考え方にも一理ある。
でも、旅行中で唯一の自分のプライバシー空間である以上、やはり相応しいモノを使う方が自分のためになる。何より、旅行する自分の気分がアガらないし、出先での扱われ方に相当な差が出てくる。ようは、本来以上に安っぽいとか、いい加減なモノを選ぶ方が、むしろ機会損失を招いてしまうアイテムでもある。
ポストコロナで久々の海外渡航を計画するなら、行先に悩むのも楽しいが、慣れた場所へ向かうにも、スーツケースごと見直してみると、経験そのものが変わってくるのだ。
取材・文・撮影/南陽一浩 取材協力/ドイツ観光局、ヴァルカナイズ・ロンドン
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