【直撃取材】金無垢G-SHOCKの製品化はこうして決まった!
2015年のコンセプトモデル発表を経て、ついに35個の限定製品の予約受付が開始される金無垢G-SHOCK「G-D5000-9JR」。この究極の1本はどのようにして生まれたのか? G-SHOCKの生みの親である伊部菊雄さんと、開発担当の西村美保さんにお話を聞いてきました。
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「メタルの究極」として金無垢を使ったコンセプトモデルを発表
伊部「G-SHOCKでは過去一度もコンセプトモデルを発表したことはなかったのですが、30周年を経過し、『一度くらい出してもいいのでは?』というふうに考えまして。丈夫な時計の究極がG-SHOCKなら、メタルの究極、永遠の価値のあるゴールドとコラボしてみてみようと思いついたのです」
そうして招集されたのが、外装設計のエース級エンジニアである西村さんをリーダーとするドリームプロジェクトチームでした。コンセプトモデルですから、見た目だけ作ってもよさそうなものですが、そこは実用性を追求するG-SHOCK。製品としての評価試験は行わないまでも、G-SHOCKと名乗るにふさわしい耐衝撃性や20気圧防水を追求します。
西村「金素材はステンレスよりも比重が約1.5倍あり、これまでのSS製ケースに使われていた耐衝撃構造では理想を実現できません。そこで、ケースの前後を別体構造とし、その間にファインレジンパーツを挟み込む形で衝撃吸収することにしました。コンセプトモデルと今回の『G-D5000-9JR』ではファインレジンパーツの形状がやや異なりますが、設計理念は同様です」
伊部「ベゼルの間に緩衝素材を入れたモデルはありましたが、ケースの間に挟み込ませたメタルのモデルはありませんでした。衝撃吸収の新しい発想で、すごいなと思いましたよ」
樹脂にはダボがあり、それをガイドとしてケースがスッキリ収まる仕組み。1mmの隙間もなく組み合わさるところに、技術力の高さも感じます。
伊部「金素材の課題は比重の重さに加え、加工の難しさにあります。そこで、日本のトップレベルの匠の方に直接お願いしました。『G-SHOCKのような複雑な形状を金で作るなんて、やったことない』と、最初は驚かれていましたね(笑)。でも、『コンセプトモデルの1つだけだから』と無理を通し、お引き受けいただきました。発表したバーゼルワールドでは、世界中のジュエリー関係者からも高評価をいただきました。結局、製品化にあたって35個を追加でお願いしてしまうことになったのですが……」
西村「最初、1個だけという約束でしたもんね(笑)。でも量産化に向けて前向きな提案もいただきました」
1個だけのコンセプトモデル。これが、後に大きな意味を持つことになります。
フルメタル「B5000」の大ヒットも製品化を後押し
伊部「メタルの究極として金無垢を採用しましたが、当初コンセプトだけの発表にしようと考えたのは、予想以上にギラギラしたものになるんじゃないかという不安もあったからでした。あくまで新しい表現としてお見せし、想いを馳せてもらえればいいと考えていたのです。しかし実際に完成してみると、思っていた以上にエレガンスな仕上がりになっていて、自分としても感動があったんです」
金無垢G-SHOCKのコンセプトモデルを発表した2015年のバーゼルワールドでは、各方面から大反響が巻き起こります。『製品化しないのか?』という問い合わせはもちろん、『どうしても買いたい!』『言い値で買うから売ってくれ!』という海外の富豪まで現れるほどだったそう。
伊部「みなさまからのご要望をいただき、私の中でも変化が生じていきました」
そうした声に応えるモデルとして2018年に登場したのが、初号機のスクエアケースをフルメタルで表現した「B5000」シリーズ。素材はステンレススチールですが、フルメタルでの耐衝撃性能には金無垢のコンセプトモデルで培ったノウハウを活かしたものでした。果たしてB5000シリーズは大ヒットを記録。この出来事も、金無垢モデルの製品化に向けて伊部さんの背中を押したといいます。
伊部「G-SHOCK35周年の節目でもありましたしね。それで、製品化を決めたのです」
販売総数は35個。あまりに高度な技術を要するため、製造できるのは月に2個だそう。2019年5月15日に予約を開始し、同年12月より受け渡しがはじまりますが、そこでも受注者全員に渡せず、でき次第順次引き渡される予定です。
コンセプト発だからこそ細部まで手の込んだ仕上がりに
製品化にあたり、改めて各種性能の評価を行っています。「B5000」での成果もフィードバックされました。
西村「たとえば金は柔らかく、加工も難しいため、裏蓋はSS素材よりも厚みを増しています。またバンドの固定方法も『B5000』とは異なり、金無垢モデルではファインレジンパーツを穴に打ち込んでピンで衝撃吸収できるようにしました。バンド自体重みがありますから、せん断を避けるためです」
仕上げにも相当なこだわりがあります。
西村「バンドの全コマに施された飾り穴は、B5000とは違いすべて小さなネジを埋め込んだ仕様になっています。素材を凹ませただけではシャープに表現できないため、平坦に研磨したネジを使用しているんです」
伊部「これは、コンセプトモデルがそうであったから。最初から量産化を検討していれば、こんな手間のかかることはしなかったと思います。そもそも飾り穴自体、バンドに設けていなかったかも……」
西村「1本だけだと聞いていたから、ここまでやり込めたんですよね(笑)」
1個だけの、究極のコンセプトモデル。そうした出自だからこそのクオリティーなんです。
「金無垢モデルはここで終了」
G-SHOCK史に残る金無垢モデル。まもなく予約受付が開始されます。
伊部「コンセプトモデルに『ほしい』というお声をたくさん頂戴しましたが、私どもとして未知の価格帯での製品ですから、どのような反響があるのか予想がつきませんね。高額な製品ですが、素材や製造のコストを考えると必然的にこの価格になってしまいました」
幸運な購入者に対し、時計をどのように扱ってほしいか?との問いには……
伊部「実用性のあるタフな時計として作りましたから、実際に着用してお使いいただきたいですね。もし私なら、怖くて絶対に着用できないのですけど(笑)。私と住む世界が違う方々が買われると思いますから、使われ方も想像つかないですね」
手に入れられなかったファンからは、追加オーダーの希望も届くのでは?
伊部「35本作るだけで約1年半かかりますし、先のことはわかりませんが、金無垢モデルについてはここで1回エンドマークをつけたいと考えています」
新しい夢は「楽しい」「ワクワク」するG-SHOCK
金無垢モデルという、ひとつのドリームを叶えられた伊部さんに、この次についても聞いてみました。
伊部「2017年11月、ニューヨークでの『SHOCK THE WORLD』でコンセプトモデルを発表しているのですが、オールサファイアガラスのG-SHOCKに取り組んでいます。ガラスは割れやすいという常識にチャレンジしたいと。ただ非常識すぎるのか、ガラスですからやっぱり割れちゃって……製品化までは遠い道のりです」
実は、この新プロジェクトのチームメンバーの相当数が金無垢モデルと重なっているとのこと。一度頭を切り替える目的で、金無垢モデルの製品化を進めることにした……という裏話も。
伊部「オールサファイアガラスが順風満帆だったら、金無垢モデルの製品化はなかったでしょうね(笑)。G-SHOCKは、かつてない耐衝撃性を実現して誕生したように、非常識な発想で成長してきました。だから、いつもチャレンジする姿をお見せしていきたいと考えています。あとで『公言しなきゃよかった』と後悔することもあるのですが(笑)」
さらには、「ちょっと楽しい」「ワクワクする」時計の開発も目指しているそうです。
伊部「これまでは非常識なこと、困難を克服するという思考でしたが、これからはワクワク感や楽しさといったプラスをもたらす何かを提案していきたいんです。まだ、これだ!というのはなく、具体的にお話しできないのですが……これも発言してしまって、たまに後悔するのですが」
西村「伊部さん、自ら追い込むの好きですよね(笑)」
伊部「結局みんなを巻き込んで大変な目に合わせてしまっています(笑)。国内外のイベントや販売店でファンや関係者のみなさまの声を聞いていると、常に夢のあるモノをご提供しなくてはいけないんじゃないかと思うんです」
金無垢モデルも、そうして登場した夢のひとつ。G-SHOCKの物語は、まだまだ続いていきます。
G-SHOCK
「G-D5000-9JR」
¥7,700,000(税抜)
限定35本
カシオ計算機
03-5334-4869
https://g-shock.jp/
金無垢G-SHOCK取扱店舗はこちら
取材・文・撮影/横山博之
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