5Gを見据えたビジネスリュック、新幹線の新制度に対応するトローリー、骨盤の動きに追従するビジネスリュック……カバンメーカー「エース」の秘密を取材しました!
1953年に業界で初めて開発したナイロンバッグに始まり、1960年に合皮をカバンに初採用したバッグ、1967年には初の国産スーツケースを発売するなど、カバンメーカーのエースにはたくさんの“日本初”があります。
「ビジネスリュックのベストセラー」累計販売数42万個を突破 “エースの爆売れバッグ”ガジェタブルの雨対策モデルがさらに使いやすく進化!
これだけエポックメーキングなカバンを生み出してきたのは、エースが「トラベルソリューションカンパニー」というビジョンを掲げ、ユーザーの問題解決に尽力してきているからこそ。
今回は〈潜在ニーズのキャッチ〉をポイントに、いま注目のエースのカバン3作を開発者の声とともにご紹介します。
1.前持ちスタイルのリュックにスマホトレイを搭載! 手放しで動画も観れちゃう「フロンパック」
ace.(エース)/フロンパック ¥21,000(税抜き) W28×H41×D10cm 問:エース03-5843-0606
まず紹介するのはSOPH.(ソフ)とのコラボレーションによる薄マチのビジネスリュック。正面上部に約45度の角度で開くスマートフォントレイ付きポケットを備え、前持ちしたときにスマホを置いて手ぶらで動画視聴できるようにしています。
企画したエースの吉原勇一さん(MD本部MD統括部 マネージャー)によると、「もともと電車内などで前に抱えての利用を想定したビズリュックを作ろうとしていました。ソフさんから5Gの普及でスマホでの動画視聴がいっそう広まるとの話があり、電車内で手放しで視聴できるギミックを検討しました」。
実際完成したスマホトレイには滑り止めと芯材が入っており、スマホが安定して置けます。一方で歩きスマホを推奨するものではないため、しっかりと固定はできないようになっています。
「一時はフレキシブルアームでスマホを固定する案も考えたのですが、やりすぎだとボツに(笑)。最終的に、ポケットに立てかける仕組みを設けました」(吉原さん)。
前持ちを前提としたリュックということで、肩からのずり落ちを防ぐ滑り止め付きストラップやウエストベルト、手が入れやすいように左右にファスナーポケットを設けるなど、細かいところまで使いやすさを考えて設計されているのもポイントです。
2.新制度を見据え、新幹線の座席サイズにフィットする仕様を追求した「レイリップトローリー」
ace.(エース)/レイリップトローリー ¥33,000(税抜き) W45×H40×D23cm 問:エース03-5843-0606
5月20日より、一部新幹線で「特大荷物(3辺の合計が160cm超250cm以内)」を持ち込む際は特大荷物スペース付き座席の事前予約が必要となりました。この新制度を受けて、新幹線での移動に対応するトローリーをいち早く発売したのもエースです。
商品名の「レイリップ」とはトレイン・トリップ=列車旅のことで、新幹線の座席の足元に置きやすいサイズを追求して作られています。座席に大人の男性が座っても、その前のスペースに置ける奥行き、隣の座席に干渉しない横幅、高さはテーブルを引き出しても大丈夫なように設定されています。
「新制度もありますが、実は旅行カバンの需要は国内旅行向けが海外旅行向けの10倍以上も多いということを受けて、開発しました。実際に新幹線の車両に乗り込んでみるなど座席サイズを丹念に調べ、足元にすっきりと置けるサイズにしています」(吉原さん)。
こちらも“座席に座っているとき”というニッチなシーンでの使いやすさも取りこぼさない、細かな気配りが効いています。
たとえば開口部を天部までかけることで、足元に置いていても荷物を出し入れやすく、また別のカバンを上にセットした状態でも使えるよう、内部にアクセスできるファスナーが前面に追加されています。フロントのテープは荷物棚に載せるときの簡易ハンドルになるということで、驚きです。
3.肩の負担を軽減し、リュックユーザーの長年の悩みを解決するための「EVL-3.5LP ランバームービングシステム(TM)搭載モデル」
ace.(エース)/EVL-3.5LP ランバームービングシステム(TM)搭載モデル ¥29,000(税抜き) W32×H45×D16cm
3つ目にご紹介するのはエースの基幹ビジネスシリーズの商品「EVL-3.5」をベースに、新開発の「ランバームービングシステム(TM)」を搭載した高機能ビジネスリュックです。
これは荷物の重みによる肩こりなど、リュックユーザーから寄せられる悩みの解決を目指して開発されたものです。この画期的な構造を開発したのはエースの若生然太さん(MD本部デザインセンター R&D課)。社内にR&D部門が設けられているカバンメーカーはなかなかないでしょう。
このランバームービングシステム(TM)は、リュック背面の腰が当たる部分に搭載されており、骨盤にフィットするように可動することで肩にかかる負担を軽減します。
「従来のリュックに備わっている腰パッドでは、腰を適切な位置で支えるのには不十分であることがわかりました。今回バイオメカニクスの研究を元に、歩行時に周期的に回旋・傾斜する骨盤と、胸部との動きのズレに対応する独自システムを開発しました。骨盤の動きに合わせてランバーパッドが3軸に可動します。6kgの荷物を入れた際、背面がフラットなリュックと比べると、肩への負担は最大で15.5%、さらには衣類への磨耗が94.4%軽減できることが定量的に実証されています」(若生さん)。
最後に、エースのカバン作りについて、ふたたび吉原さんに伺いました。「いつも半歩先を目指し、パイオニアでありたいと思っています」。市場に出ているカバンはどれもそれなりに使えるので不満が顕在化しにくく、作り手もひいては使い手も、“理想のカバン”を具体的に想像するのは難しいそうです。「カバンの潜在的ニーズをすくい上げることは容易ではないですが、市場調査やユーザーの声はもちろん、あらゆる情報にアンテナを張っています」。
LCCの台頭に始まる機内持ち込みサイズの厳格化、震災を契機としたビジネスリュックの普及、混雑する電車内で高まる手荷物への不満……荷物を運ぶというカバンの役割は変わらないまでも、世の中の変化に合わせてさまざまなスタイルが誕生してきたカバンは、それだけ人々の生活に寄り添うアイテムだということです。
時には気づきを与えて市場を喚起させる役目も果たすエースは、「すぐに売り上げに直結しないカバンもあります。でも、市場の半歩先を行くならそういうこともあるという空気が社内にあるんです。時として『そこまでやる?』と競い合うような雰囲気も、エースが尖ったアイデアを製品化できている理由かもしれません」(吉原さん)。
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