東京、麻布のカイカイキキギャラリーでTENGAoneの新作個展「More Than Meets The Eye」が開催中だ。TENGAoneは、カイカイキキ所属のアーティストだが、そのきっかけとなった村上隆との出会いは、2018年5月にロサンゼルスで開催されたストリートアートのエキシビション「Beyond The Streets」に出品する村上の作品作りに参加したことからだった。制作終了後、すぐに村上から、展覧会をやらないかという誘いを受け、即答したところから現在に至っている。
TENGAoneの名は「画が天職(天画)」であるというところから来ている。そのアメリカナイズされた画風は米軍基地の近くで暮らしていた幼少時代、そしてアメリカ文化が大好きだった父の影響だった。小学生の頃から家族でアメリカのB級ホラー作品などをふんだんに見ていたという、ある種のエリート教育がTENGAoneの感性を方向づけていった。今回の展示で驚かされるのは、一見すれば段ボールにしか見えないという、段ボールを模したMDFという木材が素体として使われていることだろう。
なぜTENGAoneは段ボールにこだわるのだろうか。
「まずなんで段ボールを選んだのかというと、これはけっこう複合的にいろいろな要素が絡んでいて段ボールになったんです。まずうちのオヤジの仕事って、たとえばチキンナゲットなどの加工食品の商品開発なんです。で、売り物にならないサンプル商品を大量に段ボールに入れて持って帰ってくるんですね。油染みだらけのぐちょぐちょになった段ボールが家の中にたまっていく。そういうものが家の中にあるのが、子供の頃すごく嫌だった、しかもオヤジはめちゃくちや怖かったので、そのオヤジが持ってくる汚い段ボールなんてマジで見るのも嫌だったんです。もうトラウマというか、段ボールがオヤジの象徴そのものなんですよ。そういう経験がひとつ。それと段ボールって、ホームレスのイメージもあったりとか、貧困の象徴ですよね。それから物流。人間がいるところすべてに段ボールはある。段ボールに入って物資が運ばれてくるから、世界中で段ボールを知らない人はいない、言葉を超えた共通のアイコンですね。といういろいろな要素がありつつ、昔、美大を受験する時に予備校の授業で粘土模刻(現物とそっくりに彫刻すること)の授業があったんですよ。それが大好きで、僕は粘土で超リアルに段ボールを再現するわけですけど、ひたすら粘土に穴をあけていく作業が楽しくて、これは作りやすくて自分に合っているな、とその時思いました」。
そんな段ボールに描かれた絵のひとつに、たくさんのスーパーロボットがある。しかしアメリカン好きなTENGAoneが、なぜ日本のスーパーロボットを描くのか、という疑問をぶつけてみた。
「ロボットアニメって絶対になくならない日本のアニメのジャンルだと思うんです。だけど、だからといって僕が最初からそれらを好きだったかというとそうでもなかったんです。大人になってから『AKIRA』とか『攻殻機動隊』とか、そういうところから入って、さらにもっと昔からある『ガンダム』『キルラキル』『ガンバスター』なんかも観てみたら、内容もしっかりしててめちゃくちゃ面白かったんですよね。クオリティだって高いし、どんどんエスカレートしてディティールがすごいことになっても普通に動くじゃないですか。アメリカとかじゃ、こんなのありえない。これは日本人ならではの成せる技で、村上さんもMr.さんも、みんな既にやっていることだけど、日本のクリエイティブのいちばんカッコいい部分を、僕ももっと世界に広げていきたい。考えると段ボールにこれを描くって、それも物流のひとつなんですね。これによって、僕の向こう側にあるホンモノの作品を改めて見てもらえる機会にもなればと思って。「マジンガーZ」から「ヱヴァ」まで新旧関係なくテイストを入れ込んでいるけれど、主には僕の子ども時代、青春時代だった、1980~90年代のテイストをネオクラシック的に描いています」。
ストリートアート出身のTENGAone、いまカイカイキキの所属アーティストとなって、何を思うのか。つまり、ストリートに見られるギャングカルチャーと、現代アートに見られるハイクラスのカルチャー、そのギャップは本人の中にあるのだろうか。
「ストリートにいたときは、最悪の環境だと思っていました。怖い人も多いし、みんなから追われるし、素性も明らかに出来なくてけっこう息苦しいと思っていたけれど、アートの世界の方がもっと息苦しい。本当に厳しいですよ。ブッ飛ばされるとかカツアゲされるとかはないけれど、だけどこれを本気でやるってことは相当な覚悟がないと出来ない、ということは村上さんから学びました。とにかく厳しさが違う。フィジカルで傷つくことよりメンタルで傷つくことの方がよっぽどキツイ。でも楽しいことは楽しいです。僕わざと辛いこと辛いとこへと自分を追いこんで行くから」。
コロナ禍の3年間もTENGAoneに味方をしたと言える。
「コロナの時も作品を作ってました。それまではずっとフリーで気ままにやってきた。でもカイカイキキに所属することになった時に、いろいろな人と関わることになって、環境が変わり過ぎて困った時期があったんです。で、それに慣れるまでに四年かかりました。作品を作ることに関しては問題はなかったけれど、僕は人と関わるめんどうくささからは、これまでの人生、逃げてしまうことも多かったんです。それをどうにかこうにか克服するためにも時間は必要だった。コロナ禍での時間は僕にとっては、それを整理するための時間で、よかったと思ってます」。
展覧会に向けてTENGAoneは次のようなメッセージを寄せている。段ボールを素体に選び、自らの身体をボロボロに酷使してまで描くその決意はこれからもっともっと世界に羽ばたくであろう明日を予言している。
「今まで辞めることもできたし、他の作品に変えるチャンスもあったに違いない。だから続けるのです。自分の思いと逆を選択するのです。兎に角、続ける」。
展覧会はカイカイキキギャラリーで2022年10月22日(土)まで開催。
©2022 TENGAone/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
Courtesy of the artist and Kaikai Kiki Gallery
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写真/坂下丈洋(BYTHEWAY) 文/額田久徳
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